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布団を変えても疲れが取れない夜に起きていること|睡眠科学の答え

疲れが取れない朝に、脳の中で起きていること

また夢を見た。しかも内容まで覚えている。

目が覚めた瞬間にわかる。今日も疲れが取れていない、と。

布団を変えた。枕も変えた。値段の高い、評価のいいものに。それでも変わらなかった。そういう経験が積み重なってくると、自分の睡眠に何かが起きているのではという気がしてくる。

その感覚は、あながち的外れではない。睡眠科学の観点から見ると、この状態には説明がつく。寝具の問題ではなく、睡眠の「構造」に何が起きているか、という話だ。

朝の疲労感を「眠りが浅かった」と片づけるのは、半分は正しくて半分は違う。正確には、浅かったというより「必要な深さに達していなかった」という表現が近い。睡眠には段階があって、その段階が正しい順番・正しい比率で組み合わさることで、はじめて脳と体が回復する。この組み合わせを「睡眠アーキテクチャ」と呼ぶ。

アーキテクチャが崩れると、何時間寝ても疲れは取れない。時間の問題ではないのだ。

夢を見た記憶が鮮明なまま起きる朝というのは、このアーキテクチャのどこかにひずみが生じているサインである可能性が、研究では示されている。どこに、どうひずみが生じているのか。それを理解するには、まず睡眠の構造そのものを知る必要がある。

睡眠は「時間」じゃなく「構造」で決まる

1953年、Aserinsky と Kleitman は眠っている人間の眼球が規則的に動く時間帯があることを発見した。これが REM(急速眼球運動)睡眠の発見であり、人類が「睡眠には種類がある」と知った瞬間だった。

現在の理解では、睡眠は大きく二つに分かれる。

ひとつは REM 睡眠。脳波は覚醒時に近く、夢を見やすい。感情記憶の処理や記憶の統合に関わると考えられている。もうひとつは NREM 睡眠で、さらに段階が分かれる。このなかで最も深い段階が「徐波睡眠(スローウェーブ・スリープ)」だ。

徐波睡眠が体の修復の核心にある。成長ホルモンが分泌され、細胞が補修され、脳内の老廃物が洗い流される。Walker(2017)はこの段階を「記憶のハードディスク書き込み」に例えている。ここが削れると、何時間横になっても疲労感は残る。

健康的な夜の睡眠では、REM と NREM が約90分周期で繰り返される。問題は、このサイクルが後半に向かうほど REM の比率が増えること。つまり、夜明け近くの睡眠は REM 優位になりやすい。このタイミングで眠りが分断されると、脳は「夢の時間帯」にいる状態で起こされることになる。

Van Dongen ら(2003)は、睡眠の累積不足が認知機能に与える影響を定量化した。6時間睡眠を2週間続けた場合のパフォーマンス低下は、2日間の完全徹夜に匹敵すると報告されている。重要なのは被験者たちが「自分は平気だ」と感じていたことだ。自覚と実態のずれ、というのが睡眠不足の厄介さである。

「布団と枕を変えても変わらない」のはなぜか

私自身の話をする。

私は基本的に毎日夢を見る。起き抜けに「あ、また夢を見ていた」と気づく朝が、ほぼ毎日続いている。

数年前、それなりに本気で寝環境を見直した。布団と枕を評価が高く、値段も高いものにかえても変わらない。寝室の遮光を強化して、温度も管理した。家電量販店で相談して、「これだけやれば違いますよ」と言われたものを一通り試した。

変わったのは「横になったときの感触」だけだった。朝の疲労感は、ほとんど変わらなかった。

夢の内容も覚えていて朝起きてつかれは取れていない、という状態が続いた。たとえば夢の中でも何かを解決しようとしていて、起きたあとも頭が「疲れた感じ」のままでいる。睡眠が終わった感じがしない。

なぜ寝具を変えても変わらないのか。当時はわからなかった。ただ「自分は眠りが浅い体質なのかもしれない」と半ばあきらめていた。

後から科学的な説明に触れて、ようやく腑に落ちた。寝具は「体が横たわる場所」を整えるものであって、「脳が何の段階で眠るか」を制御するものではないのだ。寝心地がいくら向上しても、睡眠アーキテクチャには直接干渉できない。快適に眠れるかどうかと、深く眠れるかどうかは、別の問題だ。

これは視点が変わる話だった。問題は布団ではなかったのだ、と。

睡眠科学では、寝具による「入眠しやすさ」の改善は研究でも確認されている一方、徐波睡眠の量や睡眠サイクルの構造への影響は限定的だと説明されている。表面的な快適性と、脳内で起きている修復プロセスは、別のレイヤーにある。

「良い寝具を使えば良い睡眠が得られる」という直感は、完全には正しくない。あくまで「条件のひとつを整える」に過ぎない。

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夢を覚えている朝は、徐波睡眠が削れている可能性がある

夢を見ること自体は、正常な睡眠の一部だ。問題は「覚えているかどうか」にある。

夢の記憶が鮮明に残るのは、目覚めた時点が REM 睡眠中または直後である場合が多い、と睡眠研究では説明されている。つまり、夢を覚えているということは、それだけ「深い眠り(徐波睡眠)に達する前や途中で目が覚めている」あるいは「REM が過剰になっている」可能性を示しているのだ。

Goldstein と Walker(2014)は、睡眠不足と扁桃体の過活動の関係を調べた研究のなかで、REM 睡眠中の感情処理がうまく機能しない場合、覚醒後もネガティブな感情が持続しやすいと報告している。夢の内容も覚えていて朝起きてつかれは取れていない、という状態は、脳が夜間に感情を処理しきれていないことと関係している可能性がある。

徐波睡眠は夜の前半に集中する。前述の通り、後半は REM 優位になるため、早い時間帯に眠れるかどうか、あるいは前半の睡眠が中断されないかどうかが、徐波睡眠の質に大きく関わってくる。

「毎日夢を見る」という状態は、REM 睡眠そのものが問題なのではなく、REM と徐波睡眠のバランスが崩れているサインとして解釈できる場合がある。これは「体質」という言葉で片づけていいものではなく、脳内の睡眠構造に起きていることを示している可能性がある。

仕事の夢が出てくる夜の、脳の整理作業

仕事の夢を見る。しかも、かなりリアルに。

仕事関係の夢も見る、という感覚は多くの人が経験していると思うが、これは睡眠科学に「continuity hypothesis(連続性仮説)」という概念として記録されている。Hartmann(1996)が提唱したこの仮説によれば、夢の内容は日中の経験・感情・未解決の問題を反映する傾向がある。

つまり、仕事の夢を見るのは、脳が「今日の仕事にまつわる感情や記憶を整理しようとしている」状態とも言える。

Walker(2017)は、REM 睡眠を「感情の夜間セラピー」と表現している。日中に強い感情的負荷がかかった記憶は、REM 睡眠中に再処理され、感情の「刺」だけが取り除かれて記憶として定着する。このプロセスが正常に機能していれば、翌朝には前日の出来事を客観的に思い出せる。

ただ、このプロセスが過剰になったり、中断されたりすると話が変わってくる。脳が整理作業を夜通し続けているような状態になると、REM 睡眠が延長され、徐波睡眠が圧迫される。起きたときに感じる「疲れた感じ」は、脳が夜間ずっと働いていたことの結果かもしれない。

「仕事が頭から離れない」と感じる人が、眠っても疲れが取れないと訴えるのは、構造上の理由があるのだ。これは気持ちの問題ではなく、脳の処理負荷の問題だ、という気がする。

「眠れているのに疲れる」と感じるあなたへ

ここまで読んで、何か思い当たることがあっただろうか。

「眠れているはずなのに疲れる」という感覚に、科学的な名前をつけるとすれば、それは「睡眠構造の歪み」だ。時間の問題でも、寝具の問題でもない可能性がある。

寝具を変えて変わらなかった人に伝えたいのは、「あなたのやり方が間違っていた」ということではない。それは確かに試みる価値のある一手だった。ただ、寝具が届かない場所に問題があったかもしれない、ということだ。

睡眠アーキテクチャを整えるアプローチは、寝具の改善とは別のレイヤーにある。問題の所在がどこにあるかを知ることが、まず必要なのだと思う。

毎日夢を見て、夢の内容を覚えていて、朝になっても疲れが取れない。その状態には、名前がある。そして説明がある。

なぜそうなるのかを知ることが、何かを変えるための最初の一歩になる、かもしれない。あなたの夜に、何が起きているのだろう。

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サブスク解約できないのは意志のせいじゃない|認知科学の答え →

参考文献

  • Aserinsky, E., & Kleitman, N. (1953). Regularly occurring periods of eye motility, and concomitant phenomena, during sleep. Science, 118(3062), 273–274.
  • Van Dongen, H. P. A., Maislin, G., Mullington, J. M., & Dinges, D. F. (2003). The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation. Sleep, 26(2), 117–126.
  • Goldstein, A. N., & Walker, M. P. (2014). The role of sleep in emotional brain function. Annual Review of Clinical Psychology, 10, 679–708.
  • Hartmann, E. (1996). Outline for a theory on the nature and functions of dreaming. Dreaming, 6(2), 147–170.
  • Walker, M. (2017). Why We Sleep: Unlocking the Power of Sleep and Dreams. Scribner.

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コウテイ

コウテイ

転勤族・一人暮らし歴20年以上

20代からサービス業で全国を転々。引っ越し20回以上の経験から、一人暮らしの食事・収納・節約を徹底研究。失敗も含めたリアルな情報を発信中。