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自炊が続かない理由は『作ること』じゃない|行動科学の答え

「作るのが嫌いなわけじゃない。ただ続かない」

そう感じている人は多いと思う。

自炊が続かない理由を、多くの人は「意志が弱いから」「飽きやすい性格だから」と自分を責める。けれど、行動科学の研究が示すのは違う答えだ。問題は意志ではなく、脳が無意識に計算している「4つの隠れたコスト」にある。

この記事は、続かない理由を明かすことに特化している。解決策は出てこない。なぜそうなるのかの構造を説明する記事だ。

著者は46歳、サービス業に勤務する一般人。心理学の専門家ではない。「なぜ自分はこうなんだろう」を考え続けた当事者として、その思考の過程を言葉にしている。

「自炊が続かない」は意志の問題ではなかった

「毎日自炊する人」と「ほぼ外食の人」の違いは、料理スキルの有無ではない。自制心の差でもない。

脳が、その行動を「割に合うかどうか」を無意識に判定した結果の違いだ、と説明できる。

人間の脳は、何か行動を起こす前に、その行動にかかるコストを計算している。見える範囲のコストだけではなく、隠れているコストまで含めて。料理なら、食材の購入、調理時間、気力、集中力、そして調理後の処理 ── 洗い物、ゴミ出し、キッチンの片付けまで。これらが総コストとして脳に積み上がる。

その総コストが「報酬(食事)に見合っているか」を判定する。見合わないと判断した脳は、その行動を自動的に回避する傾向がある。努力しようとしても、脳がNOを出す。だから続かない。

つまり、「続かない」ことは、意志や人格の問題ではなく、脳が正当に計算した結果かもしれないのだ。その計算式に、4つのコストが隠れている。次から、ひとつずつ見ていこう。

作った後の洗い物が、次に作る意欲を削いでいる

あらいものがめんどくさい。

これは、ただの好みの話ではない。脳科学の観点から見ると、あなたの脳は「努力の値段」を常に計算しているからだ。

クール&ボトヴィニックの研究(2014)では、人間は行動を選択する際に、その行動にかかる努力をコストとして評価していることが報告されている。同じ報酬なら、努力が少ない行動を選ぶ。努力が大きければ大きいほど、その行動は「割に合わない」と判定されやすくなる。

料理で言えば、調理自体も努力だが、その後の洗い物も同じくらい努力がかかる。場合によっては調理より洗い物のほうが心理的に重い。なぜなら、洗い物には「報酬感」がほぼないからだ。料理中は「おいしいものを作っている」という充足感がある。だが洗い物は、ただ消費する。時間を使い、体力を使い、何も生み出さない。

脳はこう計算する。「料理30分 + 洗い物30分 = 合計60分の努力。それに対して、食事で得られる報酬は10分で終わる」。努力と報酬の時間差を見て、脳は「割に合わない」と判定する。すると、次に料理をしようとする時、その無意識の判定が邪魔をする。

「作るのめんどくさいな」という感覚は、実は脳が「このコストは見合わない」と出した信号なのだと思う。

だから、洗い物が楽な人、または洗い物を誰かに任せられる人のほうが、自炊が続きやすい。それは意志が強いからではなく、隠れたコストが低いだけだ。

「作るのに30分、食べるのに5分」が続かない構造を作っている

作るのに時間かかるのに食べる時間はすぐ!

この時間差が、実は続かない大きな理由になっている、と説明できる。

ライブソンの研究(1997)では、人間は「近い報酬」を「遠い報酬」より過大評価するという現象が定式化されている。例えば、今から30分後に食べられる夜食と、3週間後に得られる5000円のどちらがいい?と聞かれると、多くの人は夜食を選ぶ。理由は、報酬が「すぐ」だからだ。時間が近いほど、その報酬の価値を大きく感じる。

これを「Hyperbolic Discounting(双曲割引)」と呼ぶ。

料理の場合、労働(調理と洗い物)はすぐに来る。だが報酬(食事の充足感)は、たった10分で終わる。脳の時間割引の計算では、短時間で終わる報酬は、実際より小さく見えやすい。一方、労働は60分かかるので、実際より大きく感じる。この歪みが積み重なると、「作る価値がない」という判定が強まっていく。

特に夜遅い時間に料理をしようとする人ほど、この時間差を強く感じるかもしれない。疲れているから、というのが理由の一つだ。疲れた状態では、報酬(食事)までの時間差がより長く感じられ、必要な努力がより重く感じられる。結果、脳は「今は外食のほうが楽」と判定する。これが繰り返されると、「自炊が続かない癖」として定着していく。

キッチン環境が「作らない」行動を誘発している

キッチンが使いにくい。

この感覚は正確だ。意志の問題ではなく、環境そのものが行動を阻害している可能性が高い。

ギブソンの研究(1979)では、環境の設計そのものが行動を「招く」か「阻む」かを決めると報告されている。彼はこれを「アフォーダンス」と呼んだ。コップが手に馴染むなら、自然と手が伸びる。ドアノブが押しやすいなら、人は自然と押す。環境は、行動を誘う仕掛けになっている。逆に、使いにくい環境は、その行動を自動的に阻む。

キッチンが狭い、調味料が取りづらい、調理台が低い、冷蔵庫までの動線が長い ── これらはすべて「行動摩擦」になる。

セイラー&サンスティーンの『Nudge』(2008)では、行動摩擦が1つ増えるごとに、その行動の実行率が低下することが報告されている。例えば、何かの申し込みに「書類に記入する」という1つのステップが加わるだけで、実際に申し込む人の割合が顕著に減る、というような知見だ。

料理も同じだ。キッチンが使いにくければ、調理という行動そのものが「面倒だ」と感じられやすくなる。脳は、その環境での行動にかかるコストを、自動的に高く見積もる。結果、「やめておこう」という判定が下されやすくなる。

これは、意志の問題ではなく、環境が出す信号に対する脳の正当な反応だ、と読み直すこともできる。

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調味料のビン1本が「隠れコスト」として積み上がっていた

調味料がビンの場合燃えないゴミ出すのがしんどい。

これは細かい話に見えるが、コスト構造としては最も説明しやすい例だと思う。

多くの人が見落としているのは、「ゴミ出し」というコストの大きさだ。料理をした夜、すぐにはゴミを出さない。ビンが貯まるまで待つ。貯まった時点で、「ああ、そろそろゴミ出しの日か」と思い出す。そこで初めて、調味料のビンを分別して、指定の日に出す。

この一連のプロセスは、料理から数日経ってから発生する。脳は、この遅延したコストも「料理にかかるコスト」として計算に組み込んでいる。これが「隠れコスト」の正体だ。

見えにくいコストほど、実は行動阻害の力が強い、という性質がある。なぜなら、その都度、脳に「あ、この手続きがある」と思い出させるからだ。次に料理をしようとする時、潜在的に「また分別して、また待って、また出す」という一連の手続きが脳裏に再現される。それが「料理、めんどくさい」という感覚を、静かに強めている。

燃えるゴミ・燃えないゴミ・資源ゴミの分別ルール。曜日。指定の場所。一人暮らしのゴミ出しは、思っているより重いタスクだ。それが料理の総コストに、見えない形で加算されている。

「続かない」は4つのコストが重なった結果だった

洗い物というコスト。労働と報酬の時間差。キッチン環境の摩擦。そして、ゴミ出しという遅延コスト。

これら4つが重なると、脳は「自炊は割に合わない」と判定する傾向が強くなる。

1つだけなら、人間はそれでも行動する。けれど、複数のコストが積み上がると、ある臨界点を超える。その時点で、行動は「ハードモード」になる。意志を振り絞ってもできるが、毎日毎日それを繰り返すのは、脳が嫌う。脳は、そういう連続的な努力を避けるために存在している、とも言える。

だから、脳は選択する。「外食のほうが楽」と。

この構造は、自炊に限った話ではないかもしれない。運動、勉強、片付け、貯金 ── 続かないと感じているあらゆる行動に、似た仕組みが隠れている可能性がある。

「続かない自分」を責める前に、その背後にあるコスト構造を一度眺めてみる。そこから何かが変わるかどうかは、その先の話だ。

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参考文献

  • Kool, W., & Botvinick, M. (2014). A labor/leisure tradeoff in cognitive control. Journal of Experimental Psychology: General, 143(1), 131–141.
  • Laibson, D. (1997). Golden eggs and hyperbolic discounting. The Quarterly Journal of Economics, 112(2), 443–477.
  • Thaler, R. H., & Sunstein, C. R. (2008). Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness. Yale University Press.
  • Gibson, J. J. (1979). The Ecological Approach to Visual Perception. Houghton Mifflin.

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コウテイ

コウテイ

転勤族・一人暮らし歴20年以上

20代からサービス業で全国を転々。引っ越し20回以上の経験から、一人暮らしの食事・収納・節約を徹底研究。失敗も含めたリアルな情報を発信中。